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ラッコや海鳥が原油でべとべとに汚れて、次々に死んでいった。
ラッコは皮下脂肪が薄く、厚い毛が原油で覆われると体熱を失って凍死してしまう。
鳥はわずかでも体にくっつくとくちばしで羽毛をつくろおうとするので、原油が体に入って死んでしまう。
またニシンやサケも原油には弱い。
対策といっても、海岸に流れ着いて固まった原油をかき取る、岩に付着したのは水を吹きつけて取り除き、あとはぼろ布でこすり取るという原始的なものだった。
米国民は毎日、油汚染で死んでいくラッコや人海戦術で岩を拭き取るシーンをテレビで見せつけられた。
ニューヨーク州最高裁のK・R判事は、同船長の保釈金を決定する際に「今回の事故は、ヒロシマ以来例を見ない環境災害である」と決めつけた。
ただ、1年後の州の調査では、サケの遡上は平年なみ、他の漁獲も予想よりは順調で、多くの人が予想したよりは後に残る影響は少なかった。
だが、まだ多くの海鳥の死骸が流れ着き、海岸の生物相も元には戻らない。
この悪夢が覚めやらない6月一13日には、ギリシャ船籍のタンカー「ワールドアイランド号」が大西洋岸のロードアイランド州ニューポート沖、約2キロの暗礁に乗り上げ、480万リットルのディーゼル油が流れ出した。
これも、米国の油濁事故ではワースト10に入るものだ。
さらに、デラウェア州のデラウェア川でウルグアイ船籍のタンカー「プレジデンテ・リベラ号」が座礁して800万リットルの重油が流れる事故が起き、テキサス州のガルベストン湾にそそぐヒューストン水路でも石油運搬のはしけがタンカーに衝突して、130万リットルの石油が周辺の海域を汚染するなど、続けざまに石油流出事故が発生した。
こうした石油汚染を「急性」の汚濁とすれば、赤潮は「慢性」の海洋汚染といってよいだろう。
今では、北海、バルト海から地中海、イギリスのアイリッシュ海、ペルシャ湾(アラビア湾)、米国東海岸のニューョーク湾やボストン湾、さらにメキシコ湾、カリブ海、リオデジャネイロのグアナバラ湾、日本や韓国の沿岸部や香港に、赤潮の常発地帯はいくらも指摘することができる。
赤潮はプランクトンの大発生で起きるが、とくに植物プランクトンは末処理の下水や農地からの化学肥料の流入によって水中に硝酸塩やリン酸塩が増え、これが「肥料」の役割を果たして異常増殖を引き起こすことが原因と考えられている。
最近では、これに酸性雨が加わってきた。
米国環境保護基金(EDF)が1988年に発表した報告書によれば、首都ワシントン沖のチェサピーク湾で、近年赤潮が頻発するようになったのは酸性雨が原因だという。
酸性雨に含まれる窒素酸化物が硝酸塩となって海にも降りそそぐことによって富栄養化することも、赤潮の引き金となっているのだ。
この報告書は、今後30〜40年に酸性雨起源の硝酸塩は40〜60パーセントも増加すると予測している。
世界的にも、今後とも酸性雨が好転する兆しはない。
ということは、こうした赤潮がさらに増加することを意味する。
赤潮は、漁業や海洋生物に壊滅的な被害を与える。
1985年に米国の大西洋岸を襲った赤潮は、毎年18億ドルの売り上げのあったホタテガイを全滅に追い込んだ。
各地で死んだクジラやイルカが岸に打ち上げられ、その内臓から赤潮のプランクトンが出す毒素が検出されることも増えてきた。
不気味なことに、この赤潮に新たな植物プランクトンが加わっている。
もともとメキシコ近海でしか見つからなかったある種のプランクトンが、82年にスペインで赤潮を発生させた。
と思ったら、タイ、インドネシア、日本にも出現し、最近ではオーストラリアのタスマニア島近海でも赤潮の原因となった。
船が運んだにしては、あまりに短期間に広がっている。
食物連鎖の最下位にある植物プランクトンが異常に増殖し始めたのは、海の生態系が根底から狂い出したのでは、という懸念もあながち杷憂といってはいられないだろう。
「地球温暖化で予想される海面上昇の影響は重大なものである。
海岸線は大きく後退して沿岸部は水没する。
洪水がひんぱんに起きて農地や植生が失われ、地下水や河口などに海水が入り込んで塩害が広がる。
海岸線の堤防の建設などに膨大な経費がかかり、影響の大きな国の財政は破綻し、わが国のような島国は大洋の波間に消えていくしかない」インド洋に浮かぶ島国モルディブのガューム大統領は、1987年10月19日の第42回国連総会で、こんな悲壮な演説をして大きな共感を呼び起こした。
それ以来、モルディブは海面上昇で被害を受ける国のシンボル的な存在ともなっている。
モルディブは296のサンゴ礁の島からなり、そのうちの10の島に約20万人(90年)の人口が住む。
といっても、人口が1000人以上の島は33しかない。
サンゴが盛り上がってできた島だけに、最高地点も海抜35メートル、人口の大部分が、海抜0・8〜1・5メートルの海岸すれすれに住んでいる。
とくに、海岸ぎわの首都のマレは、5万3000人がわずか11平方キロに集中している超過密都市だ。
この大統領演説には、せっぱ詰まった動機があった。
モルディブではサイクロン接近の余波で一サンゴ礁の国、南太平洋パラオ諸島のベラウ共和国(撮影・渡辺淳)987、88年と高波をかぶって海岸地帯が水浸しになった。
緊急援助の要請を受けた日本は、88年9月にマレの海岸地帯に消波ブロックを設置した。
コンピューター・モデルを使った予測では、地球の温暖化によって台風、サイクロンなどの熱帯性暴風雨が大型化する。
当然、高波や高潮も大型化して洪水の被害も大きくなる。
島民の間に「温暖化の影響でいよいよ海面の上昇がやってきたのではないか」と恐怖が広がり、大統領の発言となったのだ。
この国でサイクロンの被害が次第に大きくなっている背景には、海岸線の自然破壊がある。
80年代初期以来、土地造成のために60ヘクタールのサンゴ礁が埋め立てられた。
埋め立てに使うために、90万立方メートルものサンゴが爆破され、竣喋されて使われた。
さらに、観光施設などの建材に使われて失われていく。
観光客が押し寄せてきて、増えた都市排水が未処理のまま流されて海水の汚染が進み、サンゴが死んでいく。
マレでは、サンゴ礁は姿を消して海岸線が丸裸になってしまった。
サンゴ礁は自然の防波堤だ。
海岸を守ってきた緩衝地帯を破壊してしまったために、高波がもろに海岸に打ち寄せるようになり、被害が大きくなっている。
また、サンゴ礁の破壊によって、海水が地下水に浸入して飲料水が次第に飲めなくなるとともに、人口増加による過剰な汲み上げで水の不足が深刻になっている。
サンゴ礁は農地になるような土地がほとんどない。
モルディブの国土2万9800ヘクタールのうち、農地は2600ヘクタールで、国土の一割以下だ。
ここにタロイモ、バナナ、ココナツ、マンゴーなどの果物を作っている。
タロイモやマンゴーの木はとくに塩害に弱く、地下水の塩分濃度の上昇とともに、被害も広がっている。
モルディブ政府は89年2月、海面上昇でもっとも被害を受けやすい世界の一14カ国の環境担当相を招待して会議を開き、先進国に救済措置を要請するなど共同歩調をとることを決議した。
同じような恐怖の声は、サンゴ礁からなる他の国々からも聞こえてくる。
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